キャッシュ・フロー計算書の読み解き方(事例研究編)
今回は、キャッシュ・フロー計算書の基礎知識4回目(最終回)として、事例を通じて実践的な読み解き方を学んでいきます。今回は、過去に実際に粉飾決算が行われたケースをモチーフに作成しました。
項目 | 2020年3月 | 2021年3月 | 2022年3月 | 2023年3月 | 2024年3月 |
売上高 | 94,000 | 116,000 | 140,000 | 210,000 | 225,000 |
当期純利益 | 1,300 | 1,700 | 1,900 | 3,300 | ▲ 54,000 |
総資産額 | 9,800 | 10,800 | 14,000 | 23,000 | ▲ 34,000 |
自己資本比率 | 20.0% | 18.0% | 19.0% | 22.0% | ▲60.0% |
営業キャッシュ・フロー | ▲ 6,700 | ▲ 6,900 | ▲ 2,700 | ▲ 5,200 | ▲ 22,000 |
投資キャッシュ・フロー | ▲ 400 | ▲ 600 | ▲ 1,000 | ▲ 300 | ▲ 600 |
財務キャッシュ・フロー | 10,000 | 8,900 | 3,500 | 12,000 | 15,000 |
現金および現金同等物の 期末残高 | 5,400 | 6,700 | 7,400 | 15,000 | 8,800 |
売上高・当期純利益の表面上の印象
下記は、2020年3月期から2024年3月期までの売上高と当期純利益の推移(主要項目抜粋)です。
- 2020年~2023年まで、売上高・当期純利益ともに順調に増加しているように見える
- そのため「業績が好調で、今後も成長が期待できる」と判断してしまう投資家は多いはずです
しかし、実際には2024年3月期に突然、大赤字に転落しました。その原因は、回収不能となった売掛金に対して貸倒引当金を計上したことです。つまり、「回収できない」と会社自身が判断した売掛金による損失が、利益を一気に圧迫したのです。
貸借対照表から見えること
表面上は、総資産が年々増加し、企業規模が順調に拡大しているように見えます。また自己資本比率も安定しているため、一見財務面での問題は見当たりません。
しかし、2024年3月期の大赤字をもって債務超過に転落しました。これは、2023年3月期までの間に売掛金が積み上がり、さらに借入金も増加していたことが背景にあります。
ポイント: 回収できない売掛金が増え続け、現金化できない状況で借入金に頼る経営は、非常にリスクが高い状態です。
キャッシュ・フロー計算書から読み取れること
この会社で最も異常なのは、営業キャッシュ・フローが毎年マイナスであった点です。
- 通常、損益計算書の利益が黒字であれば、営業キャッシュ・フローもプラスになることが多い
- しかしこの会社は、当期純利益が毎年黒字であるにもかかわらず、営業キャッシュ・フローは大幅にマイナス
例として2023年3月期:
- 営業利益 + 減価償却費 = 5,700
- 実際の営業キャッシュ・フロー = ▲5,200
この差は非常に大きく、損益計算書とキャッシュ・フロー計算書の間に大きなゆがみが生じていることを示しています。
財務キャッシュ・フローの分析
さらに財務キャッシュ・フローを確認すると、毎年大幅なプラスになっています。これは、営業キャッシュ・フローのマイナスを銀行からの借入金で補っていたことを意味します。
- 利益は出ているのに現金は減少
- 銀行借入によって運営資金を補填
このパターンは、粉飾決算の典型的な兆候です。
粉飾決算と売掛金の関係
この会社は売上を水増しする粉飾決算を行っていました。売上の水増しによって利益は増加しますが、現金収入は伴いません。その結果:
- 損益計算書では利益が出る
- 営業キャッシュ・フローは大幅マイナス
最終的に、回収不能な売掛金を貸倒処理した2024年3月期に多額の損失を計上し、債務超過に転落、経営破綻しました。
キャッシュ・フロー計算書の重要性
この事例から分かることは、損益計算書だけでは企業の実態を把握できないという点です。
- 損益計算書とキャッシュ・フロー計算書の間に大きなゆがみがある場合、粉飾決算の可能性がある
- ゆがみが粉飾でなくとも、業況悪化のシグナルとなる
投資家へのアドバイス:
- 売上・利益の推移だけで判断せず、キャッシュ・フロー計算書も必ず確認する
- 営業キャッシュ・フローが黒字かつ安定しているか
- 財務キャッシュ・フローが借入依存になっていないか
- 売掛金や在庫の動きに異常がないか
これらを確認することで、表面的な好業績に惑わされず、より安全かつ正確な銘柄選定が可能になります。
💡 具体例の補足
例えば、同じく売上高が増加している企業でも、営業キャッシュ・フローがプラスであれば、現金収入に問題がない健全な成長と判断できます。逆に営業キャッシュ・フローがマイナスの場合は、売掛金の増加や在庫滞留など、将来リスクが潜んでいる可能性があります。
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